歴教協は"左翼団体"か?〜設立趣意書の精神に戻る〜
「歴史教育者協議会」という言葉でネット検索すると、「左翼」等の言葉が出てくることがあります。
で、タイトルの問い。
歴教協は"左翼団体"なのでしょうか?
私の答えは・・・
答えの前に、「左翼」の定義、「左翼団体」の定義から述べなければいけません。
これが難物です。
例えばですが、仮に、「左翼」を社会主義者と定義し、「左翼団体」を社会主義を是とする団体と定義したとしましょう。
私の答えは、「そうではないはず」「もしそうならやめる」です。
70年前、「設立趣意書」が書かれました。
読めばわかる通りです。社会主義でなければいけない理由はありません。
別に、新自由主義者でも、設立趣意書の精神と矛盾せずに存在することは可能です。
いや、新自由主義はこれと矛盾するのだ、と強弁する歴教協会員がいたら、どうぞ、私に論戦を挑んでくれば良いでしょう。
ただ、封建もファッショもダメというのが趣旨なので、呉智英氏や外山恒一氏はどうやら性に合わない団体のようです。
私個人としてはどちらの論者にも興味があるのですが、ここでは触れないでおきましょう。
「歴史教育は、げんみつに歴史学に立脚し、正しい教育理論にのみ依拠すべきもの」
これがあるので、たとえば、歴史修正主義者はダメだ、ということになるのかもしれません。
しかし、その人物が歴史修正主義かどうかを判断するのは誰?判断基準は何?
あるいは、歴史学を真面目に学んだつもりでも、「げんみつに」基づけているかどうかはわからないです。
だいたい、この趣意書はヘイドン =ホワイト以前に書かれたものです。
ところで、
「私たちはかぎりなく祖国を愛する」
「歴史教育は国家主義と相容れないと同時に、祖国のない世界主義とも相容れない」
「正しい歴史教育は正当な国民的自信と国際的精神を鼓舞するものでなくてはならない」
国家主義はダメだけれど、祖国愛・国民的自信は必要。
これと同じ文言が学習指導要領に入ったら、批判する歴教協会員はおそらくいるでしょうね。
いや、この脱線はやめておきましょう。
さて。
「正しい歴史教育を確立し発展させることが私たちの緊急の重大使命であることを深く自覚する」と最初に書かれています。
しかし、その「緊急の重大使命」はクリアされていません。
その確立のためにはどうすれば良いのでしょう?
「このような歴史教育をうちたてるには、歴史学者が歴史教育者と提携することはもとより、すべての歴史および教育に関心をもつものが協力しなければならないであろう。」
が、この趣意書に書かれる推測です。
「すべての歴史および教育に関心をもつものが協力」です。
「すべての歴史および教育に関心をもつものが協力」です。
大事なことなので二回言いました。
そこに、左翼でなくちゃダメとか、右翼はダメとか、そういうのはありません。
「歴史教育は、(中略)学問的教育的真理以外の何ものからも独立していなければならない」のですから。
戦後歴史教育を「自虐史観だ」と批判する人たちは、どうみても歴史にも教育にも関心があるわけで、「歴史および教育に関心をもつもの」に含まれます。
たとえその依拠する歴史学や教育学に誤りがあったとしても、歴史や教育に関心がないというものではありません。
つまり、協力すべき対象となります。
「いや、彼らが興味を持っているのは歴史じゃない」、と強弁する歴教協会員がいたら、どうぞ、また私に論戦を挑んでくれば良いでしょう。
設立趣意書の主張が正しいのかどうかなど、私にはわかりません。
ただ、歴教協に所属している以上は、その精神を踏みにじってはいけないはずです。
まだ見ぬ「正しい歴史教育」を模索するために、「すべての歴史および教育に関心をもつものが協力」する環境を作る。
「歴史教育に関心をもつすべての人が、こぞってこの会に参加」するような会を開く。
歴教協はその設立から70年経ちました。
「正しい歴史教育」があるのかどうかは知りませんが、その模索をやめて、異なる思想を排除する団体になってしまっていたら(そういうことはないはずなのですが)、先は見えているでしょうね。
これから始まる大会が、「すべての歴史および教育に関心をもつものが協力」できるような大会でありますように。