「旧石器時代」?「岩宿時代」?それとも・・・

※文末に「日本史の授業でLet's対話!!」あり(2019年8月15日加筆)

 

埼玉で行われた歴教協全国大会の最後は、現地見学。地域の教材となりそうな見所をめぐるツアーです。私はその中で、群馬・埼玉の古墳コースを担当しました。

古墳とは関係ないのですが、途中で岩宿遺跡の博物館に寄りました。

この博物館の特色のひとつとして、私たちが授業で「(日本列島の)旧石器時代」として扱う時代を、「岩宿時代」と呼んでいる、という点があげられます。

 

これは、単なる郷土愛やお国自慢の話ではありません(ですよね?)。

 

そもそも、今の歴史教育においては、「縄文時代」の前を「旧石器時代」と呼んでしまいがちだと思うのですが、これはやや誤解を生む危険性があります。

どのような誤解かというと、「縄文時代の前は旧石器時代」「旧石器時代縄文時代」という誤解です。

誤解、というのは言い過ぎかもしれませんが、この認識は必ずしも正確ではないと思います。

旧石器時代とは、世界史・人類史の先史時代の区分で、

旧石器時代 →(中石器時代)→新石器時代青銅器時代→・・・

などという変遷の一場面です。

なので、岩宿遺跡の発見は、「日本列島にも旧石器時代が存在した」ことの証明になった、となるわけです。

 

ちなみに、旧石器時代は英訳するとPaleolithic Age、縄文時代を英訳するとJōmon periodです。

同じ「時代」といっても、意味合いが異なるわけです。

 

旧石器時代の文化については、たとえば、ユーラシア大陸西部あたりには「オーリニャック文化」と命名された文化があり、アメリカ大陸北部あたりには「クローヴィス文化」と命名された文化がありました。

オーリニャックもクローヴィスもその文化の発見の契機になったような代表的な遺跡・地名です。

仮に、日本列島の旧石器時代の文化に何か命名をするのであれば、その発見の契機になった岩宿遺跡の名を冠して「岩宿文化」とするのが妥当でしょう。

それをどうしても「xx時代」などと呼びたいのであれば、「岩宿時代」「岩宿期」などとするのが妥当でしょう。

そういう意味で、岩宿博物館の用いる「岩宿時代」という語には妥当性があります。

 

ただし、気をつけなければならないのは、以下の2点です。

・約2万年にわたる日本列島の後期旧石器時代を、ひとつの文化としてまとめて良いのか?

ユーラシア大陸東部の後期旧石器時代の中で日本列島の文化を近隣地域から区分する解釈は妥当なのか?あるいは、日本列島の中での地域差は、ひとつの文化としてまとめて良い程度の差異なのか?(当時を考える上で全然関係のない現在の国境が固定観念になっていないか?)

 

列島外からの出土の少ない局部磨製石斧をひとつの特色とする後期旧石器時代前期と、北方などから入ってきた細石刃をひとつの特色とする後期旧石器時代後期と、ひとまとめに「岩宿文化」「岩宿時代」と名付けて良いのか、というのは、簡単な問題ではありません。

 

そんなわけで、現状は、(教科書も気をつけた記述になっているのですが)「日本列島にも旧石器時代があった」という世界史的・俯瞰的な見方をした上で、「1万数千年前に土器を伴う文化が・・・」と次の文化を紹介する際に、ユーラシア東部諸地域の旧石器・中石器・新石器時代の代表的な文化の変遷を図化して示したりすると良いのかもしれませんね。

 

※以下、2019年8月15日加筆(2019年8月16日にさらに加筆)

 

☆日本史の授業でLet's対話!!

①なぜそんな昔のことが「xx年前」だとわかるのだろう?

(文字がないのに、などと最初から言わない方が良いと思っています)

②人類が最初に用いた道具の材料は何だと思う?

(これで問うと、ちょっと勉強した生徒は「石!」と答えますが、そこで、「あなたが無人島に何も持たずに流されたら、何で道具を作る?」という聞き方に変えると、「木かな・・・」などと答え始めます)

③なぜ石や金属の道具で時代区分をするのだろう?

(②と関連した発問。「木ではダメな理由は?」と聞くと、だいたい答えに行き着きます。②③によって、「今、私たちがわかるのは当時の生活のごく一部の、偶然残っているものだけである」ということや、「時代区分は今の研究者が当時を解釈するためのものである」ということなどを、実感できます)

ナウマンゾウ、オオツノジカ、ヘラジカなどを狩猟したというけれど、それらの動物はどうなったのだろう?

(調べてみよう、というのも良いでしょう。教科書や資料集に載っていないなら、スマホを出してもらえば良いです。絶滅した、という事実と、向き合ってもらいます。世界各地で、サピエンスが到達すると大型哺乳類が絶滅するのだ、とサピエンス全史風に紹介して、サピエンスが他の動物とどう異なるのかを考えてもらっても良いでしょう)

⑤旧石器捏造事件、なぜなかなか捏造に気がつかなかったのだろう?

(新聞記事などを見せると良いでしょう。研究の難しさに気づいてもらうのも大切ですが、それ以上に、「日本にもっと古くから人類がいたのだ!」と盛り上がってしまった現実から、「なぜそれで盛り上がるのか?」「先祖のことだから?」「本当に先祖?」「それなら先祖は全員アフリカ出身では?」「当時日本とかあったの?」などと話し合う中で、今の国境からくる固定観念や、歴史とナショナリズムの関係について、そういう用語は用いずとも、思いを巡らせることができます)