「神武天皇」と2.11と歴史教育〜「建国記念の日」に思うこと①〜
Twitterで「建国記念の日」「建国記念日」「紀元節」などのワードで検索をかけると、
いろいろな意見が飛び交っています。
まず、「建国記念の日」ではなく「建国記念日」だと思っている人の多さ。
この「の」の存在を、重大なことだと思っている人と、些細なことだと思っている人。
建国を祝う言葉をつぶやく人。
この日を祝日にすることに反対の人。
むしろ、戦前のように「紀元節」という名称に戻すべきだという人。
時々リプ欄で飛び交う議論や罵詈雑言。
そもそも、「建国記念の日」は『日本書紀』や『古事記』などに、最初の「天皇」として記される人物(これが「神武天皇」という贈り名を贈られる人物)と関わる日です。
ところが、歴史の教科書に「神武天皇」はほんのわずかしか載っていません。
つまり、戦後世代の人々は、「神武天皇」をあまり知らないのです。
そうなると、
・なぜ2月11日なのか
・なぜ「の」が付くのか
・なぜ否定的な意見があるのか
といったことがわからず、
もし誰かに「サヨクたちは建国記念の日を祝えない!日本が嫌いなのだ!反日だ!」と言われれば、
そうなのか、日本の建国が好きじゃないなら反日なんだな、と思うでしょう。
明治政府により設定された「紀元節」をもととする「建国記念の日」について、
賛否はさておいて、「科学的でない」と主張するのは簡単なことです。
・2月11日は、「神武天皇」が即位した日だから、という理由により、明治政府によって祝日とされた
・その日付の根拠は『日本書紀』(720年成立)。『日本書紀』に書かれた「神武天皇」の「即位」の日を、現在の西暦に逆算した日が2月11日。
・ちなみに、『日本書紀』には即位の日について「辛酉年春正月庚辰朔」と書かれている。
・「辛酉年」は、西暦に直すと、紀元後であれば「60で割ったら1余る数字の年」。紀元前であれば「60で割り切れる数字の年」。
・「神武天皇」即位の日がどの「辛酉年」なのか、という問題があるが、これについては、『日本書紀』に書かれた天皇の在位年代についての数字を信用すると、紀元前660年となる。
・よって、『日本書紀』を信じると、紀元前660年の「春正月庚辰朔」という日に「神武天皇」が即位した、となる。
・『日本書紀』の、「神武天皇」についての記述が載る部分に用いられている暦は、現在の西暦(グレゴリオ暦)ではなく、7世紀末から用いられた「儀鳳暦」という古い暦。
・これを西暦に換算すると、紀元前660年の「春正月庚辰朔」は、紀元前660年2月11日となる。
・つまり、その数字を正しいと仮定すると、結果的には、『日本書紀』に書かれた「歴代天皇」たちの在位年数を全て信じることとなる。
・『日本書紀』によると、16代目(「仁徳天皇」)までの「歴代天皇」のうち、「神武天皇」の在位76年間をはじめ、11人の「天皇」が50年以上の在位期間となっている。そのうち5人は70年以上の在位期間である。100年を超える人もいる。
・それだけでも不自然な話だが、そのような在位期間を裏付けるように、その16人のうちの12人の天皇が100歳超えの長寿であったことが記されている。
・ヒトの寿命という観点から見て、これらの数字を信じるのは無理である。
ということで、科学的でない、史実ではない(論証できない、どころか、あり得ないことが論証できる)、となるわけです。
もちろん、同時代の他の資料で紀元前660年の傍証となるものがあれば話は別ですが、それもありません。
仮に「神武天皇」という贈り名が贈られる人物が存在したとしても、上で述べてきた理由により、紀元前660年2月11日に即位したということはあり得ないわけです。
さらに、「神武天皇」の実在も、現在のところ同時代資料で証明されていません。
よく、
歴史の教科書は神武天皇を教えてくれない、
日本の歴史は神武天皇から始まるのだ、
紀元前660年から始まるのだ、
と主張する人がいますが、私に言わせれば逆です。
歴史の教科書が「神武天皇」をきちんと扱えば、「建国記念の日」の非科学性は理解できる(非科学的だからいけないのかどうかについてはさておき)わけです。
扱わないので、いろいろなことがうやむやになっているわけですね。
「神武天皇は史実性がないので載せるべきではないのだ」という声もありそうです。
しかし、たしかに「神武天皇」の実在性は甚だ疑問ですが、
「神武天皇」を初代天皇としてきた千数百年の過去がある、というのは事実です。
仮に、戦後の歴史学・歴史教育は、戦前の皇国史観を乗り越えるのだ、というのであれば、
それを乗り越えるだけの材料を人々に提示するべきです。
墨で塗って隠すとか、載せないとか、そういうのでは批判できません。
「神武天皇が紀元前660年に即位した事実を知らないのか!」と言われた時に、
「知らなかった!」という人が多数だったとしたら、それは乗り越えたことにはなりません。
さて、ここからが問題です。
非科学的なのはわかったとして、だからどうなのか、という問題です。
非科学的であることは示しましたが、ぶっちゃけた話、2月11日を神武即位の日だ、祝うべきだ、と主張している人の中には、非科学的であること、史実ではないなんてことは百も承知で主張している人が多いでしょう。
・・・これについては、次回の記事で。